大好きな君へ。
 ネットを挟んでのラリーは、体力維持のために欠かせない。

以前僕はバウンドして弧を描き落ちようとする球を打っていた。

でも今は通じない。

相手に余裕を与えてしまうからだ。

上に向かおうとする球を攻撃球とする。

これが有効なのだ。


僕はどうやら的確に教えられるのようだ。

それだけで満足している自分がいた。


だから朝から大張り切りだった。




 そんな僕の言動を不思議に思ったのか?
キャプテンが盛んに首を傾げていた。


「あっそうだ。確かソフトテニスの王子様。ですよね?」

その時。
やっと思い出したようにキャプテンが言った。


「えっ、ソフトテニスの王子様!? もしかしたら相澤隼って……」

その声に驚いて振り向くと……
店長が何時の間にか其処にいた。


「相澤隼って、あの相澤隼か?」

店長が何を言っているのかは良く解らない。
でも僕は頷いた。


「オーナー。すぐレイクサイドセンターのテニスコートに来てください。ソフトテニスの王子様の相澤隼君が此処に来ています」

よせば良いのに店長はスマホを取りだし大きな声を張り上げた。


「えっー!? コーチ代理があのソフトテニスの王子様だったのですか」

生徒達は僕を取り囲んでいた。
心配した通り、ピチピチギャルに変身してしまったのだった。




 僕は元々ソフトテニス部のエースだった。


そんな僕を見て、マスコミが騒ぎ始めたんだ。


【大物女優の息子、ソフトテニスの王子様として復活】って……


実は僕、中学時代には県大会ににも出場出来るほどの実力があったんだ。

まあ、組んだペアが凄腕だったせいもあるけどね。


だから良くマスコミに追い掛けられていたんだ。


それはタブロイド誌による【ソフトテニスの王子様】騒動に始まったことだったんだ。


だから僕は、大好きだったソフトテニスを封印しざるを得なかったのだ。


又あの大女優の息子として騒がて、迷惑を掛けたくなかったからだ。
だから僕はひっそりと生きてきたのだった。




 「相澤隼君って言ったね、もしかしたら君の父親は相澤真二って言わないか?」


「相澤真二は僕の叔父ですが……」

そうなんだ。
今アメリカに行っている叔父の名前は確かに相澤真二って言うんだ。

どうやらオーナーは僕の叔父と知り合いらしい。


その時僕はまだ自分の出生に隠された真実を知らなかった。


薄々は感付いてはいたのだけど……



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