大好きな君へ。
 「あれっ、優香もコンビニ弁当か?」

そう言いながら、孔明さんが隣に座った。
そう私の名前は優香って言うんだ。
孔明さんが言った通り、お昼の弁当は眠気覚ましのドリンクを購入した時に一緒に準備した物だった。


兄は東京で下宿。
母はすでに他界していたので、父と妹との三人暮らし。
何時もならちゃんとお昼ご飯を用意するけど、今日はうっかり寝坊しちゃて…
結果、こうなってしまったのだった。


「これが終われば動物園だよね。此方もいいけど、あっちも魅力的だね」


「本当にそうですね。近所にあっても、普段なかなか来られないから沢山体験しておきます」
私は保育士らしくないことを言ったことに気付いて、思わず口を手で塞いだ。


「今日、私は引率だったんだ。私より子供達を楽しまなければいけないね」


「いや、子供達は保護者に任せて優香も楽しまなければいけないよ」
孔明さんが優しく言ってくれた。


大学生が考えた宇宙に関したクイズもその棟の中にはあった。
参加している子供達に悪いと思いながらも、帰る時間だと言って回った。


その甲斐があって、出入り口にあった段ホールにアッと言う間に使用済み靴カバーで一杯になった。


「何だかこれ、ドラマで良く見る現場検証の時の物に似てますね」
私はそれを外しながら何気に言った。




 シャトルバスなのか乗り合いバスなのか解らないけど私達は動物園とは反対側のバス停で下ろされた。


信号はかなり先なので、横断歩道で手を上げた。


先頭にはキャップとゴーグルを着けた人がいた。
沢山の子供達が渡り切るまで待たせたから、申し訳なさで胸はいっぱいだった。


――ブ、ブブー!!

いきなりクラクションが鳴った。




 「優香がいるから楽出来そうだけど、久し振りだから今日は思い切り遊んでやるよ」

その時孔明さんはそう言いながら、甥っ子の手を掴んていた。




 でも、その孔明さんに急用が出来て暫く抜けると言い出した。
何処に行くのかと目で追ってみた。


孔明さんは、横断歩道の脇で横倒しになっているバイクの元へ走って行ってしまったのだった。




 『中野先生。ちょっと離れても良いですか?』

さっきそう言ったのは孔明さんだ。
孔明さんは倒れたバイクを指差しながら言った。


『隼のヤツが』

確かに孔明さんはそう言った。


『しゅん?』

その言葉に何故か懐かしみを覚えていた私だった。


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