大好きな君へ。
 アルバイト明けに、お盆のことで結夏の母親に相談に行った。


「相澤君。貴方の気持ちは嬉しいけど、結夏のことは忘れて。それが一番良いと思うのよ。貴方にはまだ未来があるわけだし……。それに結夏と流れた子供は永代供養してもらっているから大丈夫よ」


「それでも……、僕にも二人の供養をさせてほしいんです」


「そう言えば秩父を遍路していた時に聞いた話だけど。振り出しの一番では、水子供養もしているとか……」


「すいません。詳しく聞かせてください」


「確か八月二十四日に大施食供養会って言うのがあるそうよ。あっそうだ。確かパンフレットもらって来たんだったわ」


おばさんの出して来たパンフレットには、【秩父霊場第一番の大施食會(四萬部のお施餓鬼)八月二十四日】と記されていた。
僕はそのパンフレットを隅々まで目を通した。


「午前十一時と午後二時に水子施食会法要ってありますね」


「去年行って時は凄かったわよ。午年御開帳と日曜日だったからね。ほら、前に施食殿の写真が掲載されているでしょう。彼処で五十人もの僧侶が御題目を唱えながら回るのよ。荘厳だったわ」

僕はおばさんの話を聞きながら其処へ行くことを決めていた。




 「隼君。もしその気があるのだったら、迎え火を炊く時に来てくれる?」


「迎え火ですか?」


「八月十三日の夕刻になるわ。その時は家族だけだから……」

おばさんのその言葉には僕への思い遣りが溢れていた。


「ありがとうございます。必ず来ます」

僕は頭を下げた。
その時、散華を貼った観音様が微笑んだ気がした。


「何時か僕も回ってみたいです」


「あっ、それだったらその一番に全部揃っているわよ。私達も其処で準備してから回ったの。もしイヤでなかったら、それを着てくれたなら嬉しいわ」

おばさんそう言いながら白い衣装を二組出して来た。


「貸してもらっても良いですか? 出来れば二つ」


「隼君、もしかしたら好きな人が出来たの?」

おばさんの言葉にハッとしながらも頷いた。


「だったら行かない方がいいんじゃない?」


「その娘には結夏のことで心配をかけました。出来れば二人で回ってみたいと思っています。エゴだと思っていますが」


「だったらその娘も連れて来て……。あ、それもエゴね」

おばさんはそう言いながら微笑んだ。



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