大好きな君へ。
 僕はあの日見た観音様の散華を貼った台紙のことを優香に話したんだ。
そしたら、二人で回ってみようってことになったんだ。

昔。僕が保育園に通っていた頃には夏休みってのがあって、それはお盆休みと重なっていたんだ。

だからその時にでも回ろうとしたのだけど、優香の話では今はないそうだ。


それどころか夏休みに入った幼稚園児まで預かることになって、てんてこ舞いなのだそうだ。

時代が求める保育園へと変貌しているようだ。

だから、僕は彼女と一緒に結夏を迎えたいと思っていた。




 (結夏、帰っておいで)

迎え火を炊きながら名前を呼んだ。でも僕は流れた子供の名前を知らない。おばさんに聞く訳にもいかなかった。


「でもまさか隼君のお相手が優香さんだったとは」

おばさんは笑っていた。


「同じ……ゆ、う、かでしょ。最初は結夏さんの名前を私と間違えて……今では判りますが、大変でした」


「ごめん」


「彼って嘘が下手だからバレバレなんです。だからそんなにも愛されていた結夏さんが羨ましいです」


「駄目よ。駄目、駄目。隼君は早く結夏のことは忘れてあげてね」


「はい。そのためにも来月秩父の札所を回ってみます。でもおばさん。あの駄目はもう流行らないです」


「あら、そうなの? 私聞いたのが最近だから」

おばさんはその場の雰囲気を盛り上げようとしているのだと思った。


「ありがとうございます。大切に着させていただきます」

僕達は二人分の白装束を受け取ってからバイクに跨がった。


「このバイクにも結夏との思い出が沢山あります。でも僕達はその全てを大切にして行きます。本当に僕はエゴだと思います。でも彼女も、それでいいって言ってくれてますから……」


「本当は結夏さんに物凄く嫉妬しているんです。でも、それは私が彼を愛しているって証拠ですから……」


「二人共、良い人ね。幸せになってね」

おばさんはそう言いながら泣いていた。


「おばさん。こんなこと言えないと解っていますが、結夏の分まで優香を大切にしたいのです。どうか……僕を許してください」

僕の言葉におばさんは何度も何度も頷いてくれた。




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