大好きな君へ。
 「大学は今でもテニスコートを交互に使っているのかい?」
オーナーが場を和ませるように言った。


「交互って何ですか?」


「硬式テニスとソフトテニスだよ。曜日で分けているんだ。アメフトとサッカーも交互使用なんだよ」


「そう言えば、彼処広ったです。私が行った時はアメフトしていました」


「彼処のグラウンドは凄いよ。ナイター設備もあるしね。……って優香……」


「ごめんなさい。私どうしても隼の大学を見たくてオープンキャンパスへ出掛けたの……」


「へ?」

僕は唖然として、思わず吹き出しそうになっていた。

だって、大学のオープンキャンパスの日はスポーツ健康科学科の説明会があって僕も手伝いに行っていたのだ。




 「それって、僕がオーナーのとこでインストラクターのアルバイトをする前でしょう? 実は僕も其処にいたんだ」


「ごめんなさい隼。調整池と、その上にあった空中通路しか行ってないの。隼が何時もパンを食べてる場所が見たかったのよ」

僕は堪らず優香を抱き締めた。


「お袋……ごめんなさい一度呼びたかったんだ。お袋、紹介するよ。この人は僕の婚約者の中野優香さんです」


「えっ、婚約者!?」

今度は優香が突拍子のない言葉を上げた。


「今日朝早く出掛けるから、御父さんに許可をもらってきたんだ。その時、結婚を前提にお付き合いをさせてもらうことを了解していただいた。優香……君は僕の婚約者なんだよ」


「あっそう言やさっき玄関開けたら、コイツら濃厚のキスしていたな……」

叔父のその発言に優香の顔が茹で蛸のように真っ赤になった。




 「お前は相変わらずデリカシーがないな」

突然父が言った。


「えっー!? お前、記憶戻っていたのか?」

叔父が最大級の雄叫びを上げた。




 「一体何時からだ? まさか最初からか?」


「んな、訳ないだろ。日本の空港に着いて、あの独特の匂いのせいだ。アメリカの田舎とは比べ物にならない熱気と言うか何かだよ」


「そう言えば、お前のいた田舎は空気だけはキレイだったな」


「空気だけはとはなんだ。人柄も良いぞ」


「それは言えてる。お前のようなヤツを大切に見守ってくれたんだからな」

叔父は遂に泣き出した。


「泣くな」

父もそう言いながら泣いていた。



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