大好きな君へ。
 「お前やっぱり大女優の息子だったんじゃねえか」

記者会見の翌日、マンションに孔明が訪ねてきた。


「いや、俺も知らされていなかったんだよ。ただマネジャーに代理母だって聞かされていたいただけなんだ」


「代理母って何だ?」


「今ニューヨークいる両親には子供が出来ないんだ。だからお袋が妊娠したと解った時に、代理母ってことにしてくれって頼まれたそうなんだ」


「それって、違反じゃないのか?」


「そうかも知れない。その事実をマネジャーは知らなかったんだ。だから代理母として妹の子供を出産したことを週刊誌に売り付けた訳だよ」


「酷いなそれ……そう言えば、そのマネジャーを告訴するとか言ってたね」


「恐喝罪の時効は七年なんだけど、民事では二十年なんだよ。週刊誌に載ったあの写真で脅していた訳だよ」


「叔父さんもあの大女優も恐喝していたらしいな」


「叔父には金銭を要求して、お袋には結婚を迫ったらしい。僕は今ニューヨークにいる両親の息子だとされていたからね。授乳していたのは可笑しいって……」


「あの人のオッパイで育った訳か? 羨ましいなお前」


「羨ましくもないぞ。僕なんか、まともに抱いてもらったこともないんだから」


「人気女優だから仕方ないか」


「うん。それがどんなに寂しいか、体験した者じゃないと解らないよ」


「そんなもんかな?」


「ところで、何しに来たんだ?」


「あっ、悪い。一応報告だけはしておこうと思ってな。実は兄貴が釈放されたんだ」


「今頃何だ。そんなのはとっくに知ってる。他に用事があったんだろう?」


「流石、気配りの隼だ。実は結夏の誕生日が近いから」


「そう言えばもう夏休みは終わりだな」


「だからさ、正式に兄貴に謝らせようと思ってな。そうしないと翔が可哀想だ」


「今何て言った」


「だから翔が可哀想だって言ったんだよ」


「翔って、あの翔か? 優……原島先生を悩ませている翔か?」


「そうだよ。お前知ってたのか?」


「中野優香先生っているだろ。自転車をパンクさせられて困っていたよ。でも、翔は松田じゃなかったぞ」


「だからこの前言っただろ。兄貴は離婚したんだって」


「だからあの時彼処にいたのか? ホラ、保育園の遠足って言うか……」


「ああ、体験学習ね?」



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