七色マーブル【短編集】
前方で構えるデカいスクリーン。艶のある主演女優の頬に涙が伝っていた。


ああ、チキショウ。あの女を泣かせたのは誰だ。恋人きどりの俺はヤキモキしながらいつもの指定席に座った。


前から5列目の1番左。

単館上映の封切りをいつも決まって見に来るのだ。


今回のは恋愛もの。都会から来た美しい女がとある事情で田舎へやって来る。そこで出逢ったガラス工芸の職人と恋に落ちるという、ありふれた設定だ。


だがしかし、出演者の演技の巧さは勿論の事、カメラワークや照明の使い方も実に見事。繊細で、素朴ながらも実に奥深い世界を醸し出していた。


霧雨の中で2人が抱き合うシーン。これは最高に美しかった。


物語も終盤、女の元夫だという男が出てきてガラス職人と殴り合いをしている。なんて憎たらしい奴だ。相変わらずこの役者はいい仕事をする。ほら、えーと…誰だっけ?

まぁいいか、エンドロール見ればわかる事だ。
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