七色マーブル【短編集】
「はい。」

「ありがと。」


手渡されたのは紙コップに入った温かいコーヒー。ゆらゆらと湯気が空に混じる。


「…シゲにこんな趣味があったなんて知らなかったなぁ」

「そう?」

「うん。私の行きたい所ばっかり行ってたもんなぁ。」

「ははは。まぁ…ね」


ちょっと苦笑いするシゲ。自分のコップにもコーヒーをついでいる。


「そういえばさ、たまーになんだけど月が燃えるんだよ。それが見たくて来たんだ。」

「は?月は燃えないでしょ。」

「燃えるよ。気まぐれに一瞬だけね。本当に一瞬だから見逃さないように…」



「あっ…本当に燃えた」

「うそっ、俺見逃した!」

「ダサっ」


月は確かに燃えた。煙突から大きく伸びたフレアスタックが月の角度に重なり、その身を炎が包んだのだ。


「…くやしい」


シゲの首がかくり、とうなだれた。

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