王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「こちらこそ。ウィルが世話になるな」


外出用の手袋がされた指先に唇を寄せ、女性に対する最も礼儀的で正式なあいさつをする。

その姿はウィルフレッドやエリナに見せる、どこか少年っぽく適当で無骨に感じるようなものではなく、一国の王子としての紳士的なもので、エリナは一瞬違う人の元へ帰って来てしまったのではないかと思った。


しかし、キットは彼の物言いに不満そうなウィルフレッドにウェンディの手を預けると、すぐにその紺色の瞳をエリナへ向けた。

スカートの裾を持ち上げてひとりで馬車を降りようと四苦八苦していたエリナの元へ素早く歩み寄り、両手で細い腰を掴んで軽々と地面へ降ろす。


「き、きゃあ!」


とっさに顔を上げたエリナの腰に手を添えたまま彼女を見下ろし、一日でも離れているのが不安だったというように、切れ長の目を細めてホッと息をついた。


「おかえり、エリナ」


灰色がかった青紫色の瞳に見つめられ、なんだか甘い響きで囁かれると、エリナの白い頬は簡単に朱く染まる。

キットはあたふたするエリナに構わず彼女の荷物とその横にあった大きめの木箱を片手に持ち、それが当然というようにエリナの横にぴったりついて屋敷へ向かう。
< 127 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop