王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

詰るようにハタハタとまとわりついてくるチョウを手で追い払おうとしても、ヒラヒラとかわされるばかり。


どうやら弥生がモンシロチョウの姿をしているのは、エリナが本来の名前を忘れるほどに小説の世界に魅入られているせいで、最初の頃のように大きな動物の意識を保っていられないかららしい。

ただでさえ物語が進んで世界観が完成しつつあるのに、異質であるはずのエリナが取り込まれてしまったら、入り込む隙間がなくなってしまう。


そのようなことを早口でまくし立てた弥生は、エリナにまとわりつくのをやめると、窓に向かってヒラヒラと飛んで行く。


「とにかく、宇野ちゃんは元の世界に戻ることをちゃんと考えるんだ! こっちの人間になろうだなんて、間違っても思っちゃいけない」

「そんなこと……思ってませんよ」


なんとなく図星を指されたような気がして、エリナはモゴモゴと言い訳をするように口ごもった。


(もし元の世界に戻れなければ、こっちの世界の人間になる……?)


しかし弥生はもうこれ以上小言を言う余裕もないらしく、わずかに開いた窓の隙間に滑り込み、白い羽根をはためかせて夜の闇に溶けて消える。


「いいかい、魔法を解く鍵は、真実の愛のキスだからね!」
< 186 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop