王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

たとえ言葉巧みにふたりきりで舞踏会を抜け出すことを誘われても決してついて行ってはいけないし、庭の奥の方で妖しい声を聞いても無視しなければならないと、ウィルフレッドからきつく言い聞かされている。


「あっ、ごめんなさい! ちょっと、人を探していて」


エリナはときどき誰かの肩にぶつかりながら、どこかで乙女に囲まれているであろうウィルフレッドの姿を探した。


エリナにはこれがはじめての舞踏会だったから気付いていないのだが、ウィルフレッドの忠告はまさに的を得ていた。

いくら目元を仮面で覆っていようと、彼女の柔らかそうな髪とぽってりと朱く色付いた唇は、十分過ぎるほどに出席者たちの注目を集めていたのだ。

ブロンドか栗毛がほとんどの中で、エリナの黒髪はひどく注意を引く。


仮面に隠されたその瞳が、長いまつ毛に囲われた綺麗な空色のアーモンドアイだとわかれば、彼女を誘い出したくなるのも当然のことだった。


それに加え、エリナはこの1時間足らずでもう何人もの男と踊った。

ダンスに誘っても断られない、上品で淑女的な雰囲気の女性とあらば、今夜のエリナは大人気である。


普段ならばもう少し周りの雰囲気に敏感な彼女も、はじめての経験でウェンディを探し出すことに夢中とあって、そのことに気付いていない全く無防備な様子で、それがまた男たちを煽るのだ。
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