厄介なkissを、きみと
保育園の頃、メソメソしている翔平の姿をよく見かけた。
その大半は、友達にからかわれたとか、忘れ物をしたとか、そんな些細な理由。
通園かばんにつけていたキーホルダーが外れた、ってだけで泣いたこともあった。
「あーちゃん、ハサミかーしーて」
「あーちゃん、ハンカチが落ちてたよ」
翔平から「あーちゃん」と呼ばれていた私は、
「しょーへーくんって、すぐ泣くよ。
今日はねぇ、おやつの時間にも泣いたんだよ。
ぜんざいが食べれない、って。
あんこがキライなんだって。あゆは、ぜんぶ食べたよ」
なんて。
翔平が泣いては、その理由を母親に報告していたことを今でも覚えている。
「あーちゃん」
「あゆ」
「おい」
「おまえ」
中学を卒業するまでに、私を呼ぶときの、呼び方が変わった。
泣き虫だった翔平。
寝癖があったって、平気で登校してきた翔平。
それが今、スーツを着こなし、車を運転している。