厄介なkissを、きみと

だって。

翔平とは同級生で、昔から知っているけれど、親しくしてきたわけじゃない。

当然のように助手席のドアに手をかけるのは、なんだか気が引けた。

それに。


特定の人の、特別な場所かもしれないし。


「今日は車じゃないんだな」

「飲みに行くの」

「合コン?」

「か、会社の人っ!」

「あ、っそ」


ハンドルを握る、ゴツゴツした手とか。

目を細めた、からかうような表情とか。

「そりゃ、失礼」なんて言いながら、左手でネクタイの位置を直す仕草とか。


なんだか、見てはいけなものを見てしまったような気になった私は、それらから目を逸らすように、窓の外を流れる景色に視線を移した。

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