降り注ぐのは、君への手紙

てか、あれ。
このじーさん、なんとなく焦点があってない。

俺を見ているようで、視点はそれよりもっと奥に定まっている。
これはアレかな、ボケ老人ってやつかな。

でも、ここに来るってことは亡者だろ?

亡者にもボケとかあんのかよ。マジ勘弁。

とりあえず、じじいには煎茶だ。
好みを聞くのは諦めて、お湯を沸かし自分の一番得意分野をこなす。……って、俺はお茶くみOLかよ!


「ほい、じーさん。なんでここに来たんだ? 迷っただけなら、これ飲んで落ち着いたら帰りな」

「はあ」


じーさんは、俺の差し出した湯のみを両手で包み込むように持った。


「あったかいですなぁ」

「ああ……そーだね」


老人って流れてる時間が緩やかだよな。
焦ってる自分が馬鹿みたいに思える。

じーさんは飲み込むのもゆっくりだ。
一杯のお茶を飲むだけで何分かかるんだろう。
ようやく飲み終えたじーさんは、唐突に身を乗り出す。


「ところで、宮子はどこですかいの」

「宮子?」


しらねーよ。誰だよ、宮子。
じーさんはただでさえ多いシワをますますクシャクシャにして困った顔をした。


「約束したんですがのう。必ずまた見つけるって」

「へぇ。それいつの話?」

「いつだったかのう。随分前だったような気もしますし、昨日だったような気もしますわい」


だめだ。ギブ。
ただでさえじーさんみたいな年の人間は元々そんなに得意じゃないのに、言ってることがわけわからん。

早く帰ってこーい、ヨミ!


「宮子ともねぇ色々あって」

「ふーん」


特に俺が促したわけでもないのに、じーさんはのんびりと語りだした。
その、宮子とやらとの出会いを。


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