降り注ぐのは、君への手紙
「久しぶりね。大学どう?」
「ああ、成美。そっちこそ」
那美子と言われた女性は、彼女に気づくとフッと笑い本を閉じた。
ベンチの空いている隣の部分に成美が座り、仲良く並んだ二つの影の間を猫が楽しそうに行ったり来たりしていた。
どうやら二人は友達のようだ。
久しぶりっていうくらいだから高校の同級生とかかな。
思えば、俺は成美の友達のこともよく知らない。
幼なじみなんて名ばかりで、彼女の周りの環境も何もかも知らないことだらけだ。
その時、背後からギィと重い扉が開く音がして、俺の集中が途切れた。
途端に鏡の表面に波が立ったように画像が揺れ、鏡はただの鏡に戻ってしまった。
「チッ、ヨミか……」
時間的にヨミが帰ってきたのかと振り向いたが違った。
そこにいたのは背の小さなじーさんだ。
「ここは、何処ですかいの」
若干薄くなった頭に、曲がった腰。
顔によったシワはこのじーさんがよく笑う人だったってのが分かるくらいに深く刻まれてる。
いかん。仕事をせねば。
俺は我に返りとりあえず営業スマイルでじーさんを迎える。
「じ、じーさん。えっと、まあここに座って」
いつものやり方にのっとり、まずは椅子を勧めよう。
じーさんは不思議そうに首をかしげて、恐ろしく緩慢な動作で椅子に腰掛けた。
「なんか茶のむ?」
「暖かくていいとこですのぉ」
話噛み合ってないけど。