降り注ぐのは、君への手紙


「きゃ」


急な突風が、公園内を襲う。
成美はスカートを、那美子は文庫本のページがパラパラとめくられていくのを慌てて抑える。

木に残った銀杏の葉も、地面に落ちた葉も、渦を巻くように風に踊らされる。


「……見えない」


那美子は小さくつぶやいた。
公園内の小さなベンチからは銀杏の黄色しか見えなくなる。
花吹雪ならぬ葉吹雪だ。まるで一面のひまわり畑のような黄色。

しかしそんなに強い風なのに、吹き飛ばされそうな感覚は無かった。
渦の中に入ってしまったように、那美子と成美の周りはいっそ静かだった。


「……ひまわりを沢山植えたね、って言ってた」


那美子は何かに突き動かされたように話す。


「おじいさん。宮子さんと。桜も沢山見たって」


“なあ。

なあ宮子。

今年もひまわりが咲くよ。
また背を超すほど大きくなった”


しわがれた声はひどく優しく、愛情を具現化したようだった。


那美子は子供の頃から一人だった。
本ばかり読んで、気が強く、人に靡かない。

女子同士の集団心理は理解できなかったし、あちらからも弾かれた。
親も仕事が忙しく、休日に友人と遊ばない娘に、一つの疑問も抱かない。

家は静かすぎて落ち着かず、学校も居場所とは思えなかった。

本の世界が那美子の居場所で。
公園はその世界に孤独にならずに入り込める場所だった。

那美子にとって、成美は高校で初めて出来た親友で。
公園で出会う、自分を目に映さない行きずりの老人は、恋に近い感情を初めて自分に与えてくれた人だった。

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