NENMATSUラプソディ
 会社の付近にあるこのバッティングセンターは、大学が近いこともあって、普段は何となく大学生がうろちょろしてるんだけど、さすがに年末だし空いてるだろう。

 駅と反対方向へ歩き、大学の前を通過する。若い子がちらほら門を通る。もう休みのはずなんだけど、用がある子がいるのかなあとぼんやりと彼らが行き過ぎるのを眺めた。


 え?あれ?


 何か見知った横顔が通過したような気がしたのだが。見知った?この大学に知り合いなどいない。その見知った横顔が不意にこちらを向く。

 ちょっと驚いて、でもにこりと微笑んだ。

 「優菜!」

 そうして気軽に私を呼ぶと、軽やかに走ってくる。

 「お疲れ、仕事もう終わったの?」
 「……え……ええ?……」

 見紛うことなく、この整いすぎた顔はまさしくついさっきまで同じ時間を過ごしたホスト氏だった。
 シャツにパンツにコートだった昨夜と違って、ジーンズにダウンジャケットなんか着て、記憶の中のホスト氏よりずっと若い印象だ。


 頭が混乱する。


 「あの、あなた……?」
 「俺、ここの学生なんだよね」

そうして、昨日よく見た甘い笑顔をのぞかせた。
 「こんなところで偶然会えるとかすごい」と呟く。



 ダメだ。思考が停止しちゃって全然頭働かない。ええ?えーっと?ええええ?



 「優菜」

 呼び掛けられて、はっと顔を上げれば至近距離によくできた顔がこつんとおでこを寄せている。

 「はあ?」

 間の抜けた返事しか出てこない。

 「大丈夫?」
 「はあ」
 「ここじゃ寒いから、どっかお店行こうか」


 当然のように絡められた指が、昨夜の記憶をよみがえらせて、「ふあああああ!」と思ったのだが、そこは大人の意地で口をつぐんだ。
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