恋架け橋で約束を
「ちょっとちょっと! なんで、勝手にしんみりしてんの!」
 笑顔を見せ、肘で私をつつきながら言う雪乃さん。
「いえ、その……びっくりして……。ほんとに、私でいいんでしょうか?」
「だぁぁ~! そういうつもりで言ったわけじゃないってば! 佐那ちゃんと孝ちゃんが両思いで、お互いすごく愛し合っていることが伝わったから、あたしとしても嬉しいんだよ。孝ちゃんは佐那ちゃんを選んだんだから、胸を張らないと! こういうことを佐那ちゃんに打ち明けた理由は、気遣ってもらおうとかそういう意味じゃなくて、『あたしもあれだけ想い続けてきた大事な人だから、孝ちゃんのこと大事にしてあげてね。よろしく』って意味だよ!」
「はい、ありがとう!」
「うん、いいお返事! お姉さん、安心したよ!」
 満足そうな微笑みを浮かべた雪乃さんは、少し離れたところにある花壇を見つめ、深呼吸をした。

「ほんとに、ごめんなさい。その……七月一日に出会ったばかりの私が、孝宏君と付き合うことになって」
「だから~! もう謝るのも禁止! 佐那ちゃんは孝ちゃんのこと、そこまで好きじゃないの? あたしがこういうこと言ったからといって、あっさり身を引ける程度の気持ちなの?」
「そ、そんなわけないです! 心から大好きです!」
「そう、それ! その気持ちが大事!」
 自分の胸をドンッと叩いて言う雪乃さん。
「だから、さっきも言った通り、孝ちゃんを大事にしてあげてね。あたしが伝えたかったのは、それだけ。もちろん、ここまで話しただけで、佐那ちゃんの優しくて温かくて思いやりの深い人となりが十分に分かったから、もう心配はしてないけど」
「ありがとう……」
 雪乃さんへの感謝の気持ちがあふれ出てきた。



 その後、しばらく公園内散策を楽しんだ後、カフェでおしゃべりをした。
 雪乃さんの大学生活の話は、聞いているだけで楽しい。
 私も早く記憶を取り戻したい気持ちが、ふつふつと湧いてきた。
 


 家に帰ると、お昼ご飯がもう少しで完成するところだったみたいなので、雪乃さんと一緒に私もおばあさんの手伝いをすることに。
 出来上がったところで、タイミングよく、玄関から「ただいま~」という孝宏君の声が聞こえた。

「あ、今、佐那ちゃんの顔がパァッと明るくなった!」
 雪乃さんの指摘が図星なので、びくっとしてしまう。
「未来のお嫁さんなんだから、当然でしょ」
 おばあさんの言葉にまた恥ずかしくなる。
 嫌な気はしないけど……。
「佐那ちゃん、否定しないね~、やっぱり。ひゅーひゅー、憎いぞ」
 雪乃さんが冷やかしを言っているみたいだけど、臨海公園で聞いた話を思い出し、雪乃さんの心情を想像してちょっと切なくなる私。
 でも、私のそんな気持ちも、孝宏君の姿を見た途端、吹き飛んでしまった。
 午後からまた一緒に過ごせる!



 四人でおしゃべりしながら、楽しい昼食をとった後、孝宏君と私は出発の準備を整えた。
 昨日、約束していた通り、秘密の場所へ再び行って、私たちがお付き合いを開始した記念のメモを、タイムカプセルに入れるために。
 雪乃さんは午後から、この街にいる友人たちと一緒に遊びにいくそうだ。

「ねぇねぇ、帰ってきたら、バーベキューしない? 孝宏やあたしの友達も連れてきて、ぱぁーっとね。食材代は、あたしが払ってもいいから」
 孝宏君と私が階段を下りて、挨拶のためにリビングへ入ると、雪乃さんが言った。
「いいね! ばあちゃん、いいかな?」
 おばあさんに伺いを立てる孝宏君。
「ああ、楽しそうでいいね。佐那ちゃんがオーケーなら、あたしゃかまわないよ。道具類も揃ってるしね」
「私も参加していいんですか?」
 私が聞くと、三人が「もちろん!」と口をそろえて言ってくれた。
「佐那ちゃんが参加しないのなら、僕も参加しないよ」
「孝ちゃんがこんなにのろけるとはねぇ~、よっぽどの相思相愛ぶりだ! 見ていて楽しい」
 雪乃さんの言葉に赤くなる孝宏君。
「じゃあ、決定だね。準備もあるから、五時ごろにはこの家に集合だよ」
 雪乃さんの言葉に頷く孝宏君と私。
 そして、雪乃さんと孝宏君と私は、おばあさんに「行ってきます」の挨拶をしてから、家を出た。
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