bitter sweets
02. ただのキス : 夏妃
 小寺悠真とは専門学校からの付き合いだ。

 その頃から小寺周辺は華々しく、落としにかかって落ちない女はいないというくらいだった。

 何がどうのという特徴的にかっこいいわけではないんだが、どういうわけか女の心を簡単に捕えてしまう。
 ご多分に漏れず、私も出会ったころからその一人だ。

 そんなことはおくびにも出さず、小寺の方は完全に頼りがいのあるお友達認定してくれて、何かあるとすぐに転がり込んでくる厄介な猫となった。
 しかも犬の皮をかぶっている。たちが悪い。

 こうしてもうそろそろ5年が過ぎようとしていた。

 バカみたい。

 おかげでこっちはずっと彼氏の一人もできやしないんだ。

 捕らわれてしまった心はなかなか他を受け入れない。暗闇に浮かぶ赤い火を眺めた。

 苦いタバコが手放せなくなったように、苦い思いも手放せないのか。できたら甘い方がいいんだけど、甘さが続くと味がわからなくなるからなあ。甘さに慣れたころに来るしっぺ返しが怖いなんて、知らないうちに年取ってしまったのか。 
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