今も君が聞こえる
一章
皮肉なもので、部活に打ち込もうと思えば思うほど、山上先輩のいいところが浮き彫りに見えてきた。
そして、ライバルの存在が、より大きく深く、問題点として現れてきたのだ。

私が警戒していたのは山田先輩だけだった。
でも、よく考えればわかったはずだった。もっと前にも。
なぜ彼女が、嫌われているのにそのグループに居続けるのか、その理由を。

同じ三年生なのだから、別の接近の仕方もあるはずなのに。

その理由を目の当たりにして、私は少し、苦笑した。

「山上くーん、お昼一緒に食べよ?」
「山上君、放課後予定ある?」
「山上君いつ、遊べるの?」

彼は、人気だったのだ。
三年生だけではない、後輩からも憧れを向けられていた。

彼の周りには女子生徒が多く、一年の私に、部活以外で近付く隙なんてなかった。

そこをついたのだろう

山田先輩は、部活動の時、彼の取り巻きは男子ばかりだとわかっていたのだ。

山上先輩は、整った目鼻立ちに、少し幼さの残る声をしていた。
高めの声はよく通り、笑顔は無邪気で
格好のいい人、というだけではない人気の理由がそこにはあるように感じた。
確かに顔は格好いいといえるだけ整っているのだが、いかんせん背が低かった。
160センチくらいだろうか、それより少し低いようにも感じるほどに、小さかった。

それを、補って余るだけの、人柄が人気の理由なのだろう。
笑顔は無邪気、そして性格も明るく、人に好かれる性格だった。

先入観で拒否をしない人だった。

噂を聞いても、事実を知り尽くすまで信じないタチだ。
人気がある自分をわかっていて、それでいて、何かを鼻にかけることもない。
成績は優秀ではないが、決して悪くなく、わからないことは素直に誰かに頼れる強さを持っていた。

そして優しさと、謙虚さを持ち合わせていた

ただ唯一欠点と言われている箇所、彼は弱気なところが有ったのだ。
謙虚さが大幅に働き、謙遜よりも、自分を卑下している時があるように感じていた。

ただそれでも人気は高く、彼の周りには人がいる。いつだって、誰かが囲みを作っている。

それを目撃したのは、美術の授業の為に美術室に移動している時だった。
美術室は、三年生のクラス棟にあるのだ。

「……僕さ、山上先輩が好きかも」

呟いたのは、演劇部の同級生であり、クラスメイトの茜だった。
彼女は一人称は僕だし、見た目になど気を使うタイプではなく、ライバルになるなど思っても見なかった。
そしてそれは一番避けたかった。

彼女は親友といえるほどに、仲良くしている子だったから。

ただ、高校に入ってからの友人だし、恋が絡んでそれでも親友で居続ける事ができると断言できるほど心を許しあっているわけではなかったのだ。
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