今も君が聞こえる
故人を忘れる為にだったのかもしれないけど、多分それすら考えたくなかったからだろうとも思う。
以前と変わらず依然として、練習に取り組み、夏休みも部活に打ち込もうと暇さえあれば、部員に連絡を取り練習に付き合ってもらっていた。
呼び出すのは同級生だ。先輩に連絡するのは気が引けた、といえば聞こえは良いだろうけれど
苦手だった。早川先輩の事が、人間的に苦手だった。
苦手という意識よりも、嫌悪が強かった。
私の嫌いなタイプであるのは、確かで。
どこがと、具体的にあげれる程に。

私は、酷くリアリティを求めるタイプだった。それは幼い頃からそうで、まるで浮世離れした夢など持たないくらいの、言ってしまえば可愛くない部類に入る子供だった。

早川先輩は夢見がちな人だった。

ロマンティックとかそういうことではなく、至極当たり前に現実から逃避する。

将来の夢は教師、志望大学は国立。
しかし彼は、留年間近な程に学力は低く、かといってそれを補い卒業するだけの出席日数すら稼いでいない。
彼の言うことは理想、そして夢想、そしてやはり、綺麗事。

私の演技に対し告げる指導も、書き上げる脚本も、現実として無茶な事ばかりで、彼の現実はどこにあるのか疑ってばかりいた。

他の三年生はまず、部員ではないうえに、連絡を軽くとるような仲ではなく、あくまで「部長を囲む友人」の立ち位置であったことが大きく、連絡先を知らない人もいるくらいである。

希薄

そう思い、呼び出した同級生と練習するための公園に向かって歩いていた。

陰る木の葉の色に、夏の終わりを感じる。
見上げた太陽はまだ、紫外線を降り注ぐし、熱を押し付けてはくるのだけれど。

鳴いている虫の声はもう、秋の訪れを感じさせる。

「めぐみ君、待ってたよー」
「めぐちゃん遅いよ」

先に来ていた同級生に軽く手を降り、駆け寄る先に私は、いつも見ない人を見つけ、降っていた手を硬直させる。
そこにいたのは、山上先輩だった。

「……っ」

息を呑む私に、向けられた笑顔はやはり無邪気なものだった。年相応と思えないほどに、無邪気な。

「肥田さんから連絡もらって。俺も文化祭で役もらってるから。」

ニッと笑うと、少し見える八重歯が、さらに幼くみせる。

「茜、が?」

彼女が、連絡したという事がにわかに信じられない。
私の知っている茜は、内気で人見知りだし、上級生と仲良くしている姿などあまり見たことがなかった。
連絡先だって、知らないのではないかと思っていたくらいなのに。

「山上先輩もめぐちゃんも来たし、始めよ?」

いきなりその場を仕切ったのは、沼野だった。彼女の言葉に弾かれたように唖然としていた頭を切り替え、台本を取り出した。

何度読んでも納得いかない台詞が有ったから意見を聞き、何度も立ち回りを確認する
それでもしっくり来なく、皆の休憩中にも私は、ひたすらに動き回っていた。

練習を終え、それぞれの方向へ帰り始めたとき、私のケータイが鳴る。
その時、隣に茜がいてためらうも、着信の文字は山上先輩だと告げていた。

「先輩だ、ごめん出るね」

通話ボタンを押した。

「はい、佐藤です」

「あ、俺。山上です。あのさ、今いい?」

聞こえる声は、感情が汲み取りにくい冷静さで、私は首をかしげた。
「はい。大丈夫ですよ」

「俺さ、佐藤さんの演技嫌いだわ」

それだけを告げて、電話は唐突に切れた。
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