【完】キミと生きた証
「武石先生、おはようございまーす。」



俺より2年先輩にあたる、同じ年の看護師と、俺の向かっていた学会の会場の入り口ではち合わせた。



「仁奈子・・・?お前なんで東京にいるんだよ?」



「だってこの学会、でたくて。」


ぴらりと会場の地図を広げて笑う。
上がる口角、えくぼが懐かしい。



地元で看護師として働いているはずの仁奈子が、東京の学会の会場にいる。


わざわざ新幹線で数時間かけて、日本で一番大きな心臓病の学会にくるなんて、間違いなく、ちとせの影響なんだろう。


・・・俺と同じように。



今日もまた、世界や日本の最先端となる学術論文でも発表されるかもしれない。



”誰かの希望の光になって”



そう願われた俺は上を目指すしかないだろ。




俺たちは受付でもらった名札を首から下げて、学会の会場に入った。




「ちーちゃんから・・連絡は?」



「ない。お前は?」


「・・・まだない。」


「あ・・、そ。」



俺たちは相変わらず、会うたびにこのやり取りをしてた。



お互いの答えに肩を落とすのも、また、いつものこと。





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