白い月~夜明け前のその空に~


初めて見る寝顔ではないけれど、今日はいつもと違う。


鼓動と共に、胸の内からじわじわと込み上げては水が溢れていくような。





波紋が永遠に揺れては広がり、今にも零れそうな……。








家の中で二人きりの部屋、側で眠る恋する人。


そんな有りそうで無かった状況が、彼女の熱い気持ちに拍車をかける。







“熱い水が、零れ落ちてしまう前に……。”






彼が眠るベッド脇に立ち膝になり、覆いかぶさるように彼を見下ろす。










ほんの一瞬のキスをした。



いたずらのように、夢のように、風が過ぎ去ったように、微かに触れ合った。





彼女の初めてのキスは、自分だけが想いを寄せる、今までの片思いの果てのような、切ない秘密の泉で溢れ返っていた。




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