白い月~夜明け前のその空に~

「そんなことはない。…拾ってくれてありがとな」


「いえいえ」


「…教室、戻ろ。もうすぐ昼休み終わる」


「うん」



陸はホッとした表情に変わった小柳を見て、自分も胸をなで下ろした。




別に彼女には何の非もない。


確かにこれまで誰にもあの場所を知られることはなかったが、秘密の場所だという意識は陸にはなかった。


自分にとって教室よりは居心地が良い場所で、気づいたら昼休みにベンチに行くのが、当たり前になっていただけ。


それなのに、彼女があまりにも悲しそうな顔をするものだから、つい陸も罪悪感を抱いてしまった。







陸の少し後ろを歩く彼女は、どこか遠慮がちで、教室に戻るまで一言も話さなかった。





小柳栞は、クラスで一際目を引くタイプではないが、控えめな性格と色白で華奢な外見から、好意を寄せる男子は少なくなかった。







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