結びの魔法
「要、陽。あそこだけなんか人が少ないぞ。あそこを通ろう。このままじゃ日が暮れる

か迷子になるかだ。」

「わかった!じゃあ、せーので行くか。」

「せーの!!そ・・・れぇっ。」

陽の掛け声で僕らはやっと人ごみから抜け出した。けれど出た瞬間、そこに人が寄り付

かないわけが分かった。そこには細い路地があった。そしてそこで軟弱そうなめがねを

かけた男の人が学生服を着た人に絡まれていた。絡まれるというか、正確に言うと『カ

ツアゲ』。

「・・・巻き込まれたら大変だ。さっさと行こう。」

秀はぷいっとそっぽを向く。周りの人も同じ考えだろう。男の人は助けを求めて視線を

さまよわせている。けれど誰も名見てみぬふりをする。

「そうだね。弱肉は食われればいいのさ。」

ときどき僕は僕自身に驚くときがある。僕が思っている自画像は結構温和で、優男とい

うことだ。けれど時々自分のものとは思えないくらい冷酷なことを言っている。僕の中

にはもう一人の僕である『要』がいる。僕はそいつを陰と呼んでいる。そいつは僕とは

逆で、冷酷で残酷な性格だ。ちょくちょく出てきては何かしら言ってすぐに戻ってしま

う困ったやつだ。

「これしか金がねぇのかよぉ?しけてんなぁ。これじゃあぜんぜん遊べねぇだろ?」や

さしい口調だけに余計に恐怖感を仰ぐ。男の人はすっかり恐怖のどん底に陥ってしまっ

ている。僕らには関係ないと行こうとした時だった。

「うちのババァは一生懸命働いてるって言ってたけど、それでもぜんぜん足りないんだ

よなぁ。でも楽して金が手にはいったなぁ。お前みたいに弱いのはとっとと死ねばいい

のにさ。」

カツアゲ男はそんなことを口走った。だがそれは僕らにとって最大の禁句だった。僕ら

がどれだけ苦労して今ここにいると思っている、僕らがどれだけ・・・どれだけ・・・。

「どれだけ・・・。」

今ここにいるのは陰かもしれない。でも僕も半分ここにいる。はらわたが煮えくり返り

じわじわと頭に血が上る。理性を殴り捨てて三人の体は勝手にカツアゲ男に近づいた。

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