結びの魔法
「先生・・・。なんとお礼を言ってよろしいやら・・・。ありがとうございます!!」

秀はもうこれ異常下げられないほど頭を下げてお礼を言った。

「いいんだよ。使ってもらえればそいつも喜ぶよ。」

「僕からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。」

「僕からも。本当にどうもありがとうございます。」

二人でペコリペコリとお辞儀をする。

「授業が始まるよ。さ、教室に入りなさい。」

先生に促されて、喜んで浮き足立っている秀を連れて僕らは教室に入った。生徒はもう

ほぼ全員が席についており、僕らの席が妙にぽっかり浮かんで見える。あれが僕らの、

僕らだけの席。居場所。努力の末に獲得したもの。いすと机は僕らを待っているように

見える。そして僕らも招かれたように席に着いた。

そんな日が続き、あっという間に一週間が過ぎて、今日ははじめての休日だ。養成所と

いっても休日がある。そしてこれから僕らは自分達で料理をすることを強いられた。い

つまでも人に頼るのはここの校則に反している。裏庭の畑で野菜も育てている。そして

僕らは少しのお金をもらい、それでうまく買い物をし、自分で料理を作るということを

覚えた。今日は近くの商店街へ買い物に出かける予定だ。目的は食糧を買うこと。でき

るだけ安くて安全なものを見分けるのは、やはり日本でも生きていくうえで大切だ。僕

らは地図をもらい、商店街出かけた。

歩いて15分程度でにぎやかな場所に出た。そこにはたくさんの人と物資が溢れてい

る。耳が痛くなるほど人の声が聞こえる。

「空港よりも騒がしいな・・・。陽、はぐれるなよ?」

「大丈夫。だってほら。」

そう言って陽は左手を上げた。そこには僕の手がしっかりと握られていた。

「これではぐれるなら秀だけだ!」

参ったかとでも言いたげに、胸を張る。その拍子で僕は少し中腰になる必要があった。

「俺ならご心配なく。さてと、まずは野菜だな。」

陽を軽くスルーして八百屋へと向かう。けれどどうも人に流されて進みにくい・・・。
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