不機嫌なアルバトロス
後から、俺が施設に来た時には、母親が死んでいたことを知った。



周囲の大人たちはその理由を俺に伝えることはしなかった。



だけど、今は情報社会だ。



調べようと思えば直ぐに分かる。



ついでに言えば、お節介で悪意のある奴等が、訊かなくても教えてくれる。





『お前の母親、一緒に暮らしてた男に殺されたんだってな』





知ったところで、母親への嫌悪感や女への嫌悪感が膨らんだだけで、何の役にも立たない情報だったけど。




あぁ、でも。


あの時。


アンタが俺に付けた名前の意味が、漸(ようや)くわかった気がしたんだ。




広い空は、世界であり、人で。



どこまでも広くて、続く。



その中は決して青くはない。


白くもない。


どす黒くて、雨も降る。


俺はそんな中から出てきたから。


だから、生きることに執着を感じていないけれど。



それでも。



途方に暮れるほど、苦しいことや辛いことがあっても。


生きろ。


そして、あの日二人で見ていた突き抜けるほどの青を。



陽の光の下、澄んでいる青を。



俺の青を。


お前の青で。



お前の世界を、お前の色で。


染めていけよ。



―アンタはそう、言ったんだろ?

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