不機嫌なアルバトロス
「そうだよ!一杯だけ、それだけでいいから、付き合ってよ!」




タカはそれに便乗し、やけにニコニコと笑う。



二人に気圧されながら、私は仕方なくもう一度座りなおした。



「…じゃ、、折角なので…一杯だけ、飲んだらにします…」




「やったー!」



無邪気に喜ぶタカ。


そして―



あれ?



見間違いだろうか。



私は目を擦る。



今、確かに、少しだけ。



葉月が笑ったように見えたのだ。



だけど見直してみても、葉月は無表情で、その内カウンターの端にいる客と話し始めた。




ま、いっか。



私は特に気にすることもせずに、グラスに口をつけた。




これを一杯飲んで、直ぐに帰ろう、と。








ん?あれ。


これって―







「なんか葉月が無愛想でごめんなー。」



タカが申し訳なさそうに私に謝る。



「あ、いえ、、そんな…」




言いながらも、空になったグラスに私の目は注がれたまま。





「…で、さ。カノンちゃん…実は、俺、話したいことがあって。真剣に。」




タカが何やらきりっとした表情で、言っているけれど、私には遠く聞こえる。




「俺…、さ。。。カノンちゃんのこと―」




その時。



私の視界はぐにゃりと曲がり、手からグラスが消えた。



絶対に、割れたはずなのに。


割れた音はしなかった。



私の耳に聞こえたのは。




「カノンちゃん!?」



タカの驚いたような声と。



「葉月!お前―」



責めるような、声。




あぁ、それが。



貴方の声だったら、良かったのに。





< 393 / 477 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop