12月の恋人たち
「ねぇ樹。」
「なんだよ。」
「…なんでこんなに混んでるの?」
「今日が何月何日か知ってるか、お前。」
「…12月…24日?」
「何の日?」
「んー…えっと、冬休み…じゃなくて、あ、クリスマス。」
「厳密に言うとイブだからな。普通に考えて混む日だ。」
「なるほど。」

 期待はしていなかった。もとより、こんな彼女に期待する方がバカげている。にもかかわらず、いつもとは少し違う展開を全く期待していなかったと言えば嘘になるのがより悲しい。

「…樹。」
「なに。」

 ぐいと腕をひかれて、少し体勢が崩れた。と思った矢先に頬に感じた温い感触。それが何だったのか理解するまでに時間がかかった。

「っ…おま…今何を…。」
「何って…キス?」
「なんで疑問系なんだよ!」
「じゃあキス。」
「だからなんでいきなり…。」
「…クリスマスプレゼント、用意してなかったから。」
「…なんだそれ。」

 樹は頭を掻いた。顔が急激に熱くなるのを感じる。彼女の行動が奇想天外なのはいつものことだ。…冷静に考えれば、それに振り回されてばかりいる自分もいつも通りだ。

「クリスマスプレゼントはお前ってこと?」
「そう。」
「…あのなぁ、お前のことなんてとっくの昔にもらってんだけど。」
「そうだけど。」
「つーか彼氏いるくせにクリスマス忘れんなよ。俺の方がよっぽど乙女だわ!」
「知ってる、よ。そんなの。」
「まぁでも、可愛いのは圧倒的にお前だけどな。」
「…そう、かなぁ。」
「俺の方が可愛かったら困るわ!」
「…樹、可愛いけどなぁ。」
「うるさい!」


*fin*
< 25 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop