12月の恋人たち
「この生活が変わるってことも、俺は考えてるんだけど。」
「どういう意味?」
「家族がほしい。俺と澪波だけじゃなくて、子供も。」
「…そうだね。家族、増えたら楽しいかも。あ、でもだとしたら協力的な父親じゃないと困るよ?私、仕事もするつもりだから。」
「俺が協力的じゃないように見える?」
「ぜーんぜん。むしろ絶対私より過保護。女の子が生まれたら特に。」
「うわー言えてる!」

 二人で顔を見合わせて笑った。なんて幸せな想像だろう。でも、それに手が届かないわけでもない。

 何というわけもなく、ずっと一緒にいるような気がしていた。同棲生活を始めて8か月。大きなもめ事もなく、穏やかに日々が過ぎていく中で、少しずつ恋人ではなくなって、少しずつ家族になっていくような不思議な感覚を覚えていた。だからこそ、何の疑問もなく結婚を選べる。結婚は恋人から家族になる約束だと、澪波は思うから。

「幸せになろうか。」
「特別今が不幸せだとも思わないけど。」
「それは俺も思わないよ。でも、時には口約束だって大事だろ?」
「そうね。」

 『幸せになろうか』とは、なんて優しい響きなのだろうと、素直に思う。『幸せになりたい』だけでもなく、『幸せにしてやる』だけでもなく、歩み寄って、手を取り合って、今よりも幸せになるために、進む。

「というわけで澪波ちゃん。」
「小作りしないからね。籍入れるまでは。」
「なんで言いたいことわかってんの!?」
「どれだけ一緒にいると思ってるの?」
「じゃあ今日も一緒に寝て。」
「それは寝るの意味が違うから嫌。」
「じゃあキスくらいはいい?」
「…そうやって普段言わないくせにこうやって聞かれると逆に許可しにくい。」
「じゃあ聞かない。する。」
「んっ…。」

 する、と決めてからの行動が早いことは、付き合い始める少し前に気付いたことだったと思い出しながら、澪波はゆっくりと目を閉じた。集中しなくても唇に意識を集中しなくてはならなくするのは聡太の得意技だ。

「澪波、少しだけ口開けて。」

 甘く響く、媚薬みたいな声を突然出すのだからタチが悪い。ただ、それに従う自分が愚かであることもちゃんとわかっている。

「うん。可愛い。」

 止まることのないキスに、身体中が熱を帯び始めた。これはまずいと思って、聡太の身体を押し返す。

「ここまで。」
「え、なんでー?」
「仕事、残ってるから。あと、これ以上したら聡太の手は止まんないでしょ。」
「っ…ことごとく澪波の読みが当たってるから悔しい…。」
「聡太ばっかりが私のこと知ってるわけじゃないんだからね?私だってちゃんと、…わかってるし。」
「うん。知ってるよ。知ろうとしてくれて、ちゃんと知っててくれてること、すげー嬉しいから。」

 ゆっくりと再び距離を埋めるように伸びてきた腕に身を任せる。

「メリークリスマス、澪波。」
「メリークリスマス。」

 額が重なって、笑みがこぼれる。

「子供できたら、こうやって二人でいちゃつけないのかーもしかして。」
「そうだね。子供優先になるし。」
「あ、でも寝ないとサンタがこないぞーって言ったら案外早く寝てくれたりして。」
「あはは。単純で可愛い。」
「子供が寝てからが俺らのクリスマスの本番になるわけだ。」
「もう寝る!離して!」
「やだー。一緒に寝るから!」

*fin*
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