後ろの姉
その日の夜
「そういえばさ、」
間髪をいれず話し続ける。

風邪をひいた恋人のところに、栄養剤やら冷えピタやらを渡しに行った帰り。
相手は、車を運転する父親。
決して、気まずかったとか、そういうことではないのだ。
決して、頭が割れそうだったからとか、そういうことではないのだ。
ただ、流れているFMラジオから聞こえる音楽が、
暗すぎただけなのだ。


父から相槌が返ってくる。
そこに安心して、私は続ける。

「最近、馴染みのアロマ屋さんに紹介してもらった
ハーブティーのお店に行ったんだ。」

相槌が返ってくる。

「そこでね、あのアロマ屋さんの紹介です、って言ったの。
そうしたらお店のご主人が歓迎してくれて、話し込んじゃってさ。」

相槌が返ってくる。

「最後に、『また来てください。ああ、そういえば、名前を教えてください。』って、
そう言われたの。」

相槌が返ってくる。

「そこでね、苫米地ですって名乗ったんだよ。そうしたらね。
『あれ、近くにあるたい焼き屋さん、あそこの娘さんも、
おんなじ漢字で、とまべちって言うんですよ。お知り合いですか?』って言うの。」

相槌が止まる。

「でもね、そんなの知らなかったから、『関係ないですねー』って
言ったのよ。」

相槌が止まっている。

「不思議なもんだね。」

気づいた。相槌が止まっている。
どうしたんだろう。

でもそこまで聞いた父は言ったのだ。

「ああ、関係あるんだよ。」
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