いろはにほへと
Luce


残暑厳しい二学期が始まる。




「行って来ます」




「行ってらっしゃい。」





いつものように家を出るけれど、いつもと違うのは父がゆっくりだということ。



出勤時間が少しズレるらしかった。





「ひなの、あなた近頃どこかぼんやりしているから、車とか気をつけなさいよ!って、あ!」





母が腰に手を当てて注意するけれど、全く耳に入っていない私は、母が言葉を言い終わらぬ内に家を出て行く。





「ひなの!?もぉー」





母が頬を膨らませていると、新聞を広げた父がトイレから出てきて、もう誰もいなくなった玄関を母と同じ方向に眺めた。





「ひなの、少し様子がおかしいですか?」




「そうなのよ、一体どうしたのかしらね!前髪もあんなにしちゃったし。クラスで何も言われないといいけど…」






両親のそんな心配を余所に、私は前髪の事なんて少しも気にしてなくて。



心は、姫子さんの家に置いてきてしまった様に、ここにあらず、で。



機械的に学校へと向かった。
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