いろはにほへと

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「おいって。なんだよ、ぼんやりしてさぁ。」





孝祐が肘でつついてきてはっとした。





「お、そろそろ行かないと。」





話を変えれば、あからさま過ぎたのか孝祐が苦笑した。






裏から会場を覗けば、ものすごい人と熱気で覆われている。



様々な色彩を放つ光があちらこちらに点在していて、眩しさに思わず目を細めた。





今日からまた戦争が始まる。




自分との戦いだ。





「なぁ、遥。ひとつ、訊いても良い?」





スタッフの合図を待って居ると、ドラムの岸谷宗司に肩を叩かれた。





「何?」




「…こっから離れて、何か、、見つかった?」




予測していなかったことを訊かれ、虚を突かれたように目を瞬かせる。






「…そうだな。」




顎に手をかけて、考え込む仕草をした所で、スタッフのゴーサインが出た。





「欲しいものは見つかったけど、手に入らなかった」




「なんだそれ」







宗司が呆れたように笑い、揃って舞台に向かった。






案外簡単に諦められたと思っていたけど。








濡れた瞳だけが、チラついて離れてくれない。

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