いろはにほへと
「良いね、その動揺した顔。」



「なっ…うわ」


いたずらっ子のような笑みを浮かべると、桂馬はサングラスをかけ直し、私の手を引っ張って歩き出した。




「そんな顔もできるようになれば、明日の撮影は今日とは全く別物になる。」




得意げに言った桂馬の背中を、恨めしげに睨んだ。


それが今できる精一杯の抵抗だった。






―演技、演技って。。



演技の為にする代償としては、、かなり高くないですか?いやいやいや、私にそんな価値なくても、、だとしてもやっぱり受け容れられないんですけど?



何しろ、何がどうなってこうなったのかが分からない。



恋の終わらせ方、荒療治とはどういうことだったのか。




桂馬の考えが全く掴めないでいた。



ふらふらふらふら、ゆらゆらゆらゆら、ぐらぐらぐらぐらと、気持ちばかりが揺れ動いて、定まらない。



この日の私の頭の中は、完全に桂馬一色にされて、支配されており。




「ほら、着いたよ。明日はマネージャーの車で迎えに来るから、朝5時には家の前に居て。」




「……あ、はい…」




「じゃーね。」




タクシーの窓から手を振った桂馬に、くにゃくにゃとしたばいばいしか返せず、彼の顔に焦点合わせることもできなかった。よって、俯き加減で別れた。

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