心を全部奪って
突然彼女が、私の方に視線を移して言った。


よくよく考えてみたら、この窓際の席は他にも沢山空いているのに、


こうして横並びに座っているのは不自然だったかもしれない。


つけまつ毛をバッチリつけた大きな目で、


なぜか彼女は私のことを頭のてっぺんから足の先までじっくりと観察するように見ている。


「あぁ、彼女は俺の営業アシスタントの朝倉さんだよ」


「営業アシスタント…？」


霧島さんの言葉に、彼女の視線が少しだけ鋭くなるのを感じた。


「たまたまお互い一人だったので、ここで仕事の話をしていただけなんです」


あえて説明することでもないけど、下手に敵を作りたくない。


だってこの人って多分。


ううん、間違いない。


霧島さんのことが好きなんだ…。


「そうだったのね。

私、庶務課の日高桃香です。

よろしくね」


「朝倉といいます。

どうぞよろしくお願いします。

じゃあ、私は先に事務所に戻りますね。

失礼します」


トレーを手にして、足早に退散した。


二人の視線を背中に感じたけど、私は振り返らなかった。


なんとなく、


この二人のツーショットを


見たくないと思ったから。

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