心を全部奪って
「ほら。早く言えって」


「え、えぇっ。で、でも…」


「言わないんだ?

じゃあ、キスだな」


「わ、わかった。

言う!言うから勘弁して!」


「うん。じゃあ言って」


にっこり笑う霧島さん。


私はスーッと息を吸って、ふぅと強く吐いた。


「た、拓海…」


「ん~?小さい声でよく聞こえなかった」


「えぇっ?」


うそだ。


これだけ近くにいるんだから、絶対聞こえてるはずでしょ?


「はい、もう一回」


もう。


この人、絶対いじわるだ。


Sだ、ドSだ。


霧島さんはニヤリと笑いながら、私が呼ぶのを今か今かと待っている様子だ。


なんだか、額に変な汗かいてきちゃった。


でも言わないと、観覧車が地上に着くまでずっとしつこく言われそう。


私は大きく息を吸った。


「拓海っ」


私にしては大きな声を出したわよ。


どうよ?


これなら満足でしょう?


「うん。合格」


そう言って微笑んだかと思ったら。


霧島さんは私の後頭部に手を回して、


私の唇に自分の唇を重ねた。

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