心を全部奪って
ソファーに置いてあるバッグに、左手をそっと伸ばす。


チラリ画面を見たら、


霧島君からの着信が…。


「どうした?電話?」


「あ、えと…」


どうしよう。


きっと、心配してかけて来てくれてるんだ。


でも。


でも…。


「いいの…。

あとでかけ直す…」


「そう?」


「うん」


「あ、そうだ。ひまり。

今夜、このホテルに宿泊しようか」


「え…?」


宿泊…?


「もう、部屋もとってあるし。

今夜は、家に帰るつもりもない。

だから、

朝まで一緒に過ごそう」


工藤さんの思いがけない誘いに、私は目の前がクラクラしていた。


霧島君の顔が頭をよぎるけど。


私は、コクリ頷いてしまった。


その途端、凄まじい罪悪感が全身を襲った。


ごめんなさい。


ごめんなさい。


私、やっぱりまだ


工藤さんが好き。


奥さんと別れるって言ってくれてる彼に、


別れてなんて言えない。


霧島君。


ごめんね…。


本当に、ごめんなさい……。

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