心を全部奪って
それは、忙しさのピークが少し落ち着いた11時過ぎのことだった。


それまでただ黙々と仕事をしていた彼が、突然私の名前を呼んだ。


恐る恐る返事をすると、彼はPCを見たままこう言った。


「ちょっと手伝って欲しい仕事があるんです。

一緒に付いて来てもらえますか?」


その丁寧な言葉遣いとは裏腹に、彼の横顔は憂いを帯びていた。


手伝って欲しい仕事。


そんなものはないはずだから。


きっと、私に話があるんだろう。


ここは逃げていたってしょうがない。


本当の事を話さなくちゃ。


「はい…」


私は覚悟を決めて頷いた。

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