心を全部奪って
「そのつもりだが、何か?」


工藤課長の声は至って冷静だった。


「言うのは簡単だよね?

でも実際、行動に移すのって大変じゃないスか?」


俺の言葉に、工藤課長がハッと馬鹿にしたように息を吐く。


「いつまで引っ張る気ですか?

あの子はそこまで鈍い子じゃないですよ。

いつかは気づくんだ。

あんたが本気で、奥さんと別れる気がないってことをね…」


そう言った直後、目の前が急にグラッと揺れた。


ビックリしたのも束の間。


いつの間にか工藤課長が、俺のネクタイを掴んでいた。


「なんスか?これ。

ケンカ売ってるんスか?」


冷静に言ってはみたけど。


内心かなり驚いていた。


いつも紳士的で落ち着いた工藤課長が、


こんな行動をとっているのだから。


それだけ、朝倉に本気なんだと。


わかるだけつらいけど…。

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