心を全部奪って
「もう、ひまりに手を出すな」


工藤課長の瞳は、怒りに満ちていた。


でも、俺は絶対怯まない。


「イヤだって言ったら…?」


ニヤリ笑って見せた。


「ひけ」


「ひかない」


俺は本気だからな。


中途半端なあんたとは、絶対に違う。


俺の存在を脅威に感じて、独占欲が渦を巻いているだけなんだろう?


これだけのイケメンだからな。


誰かに女を奪われたことなんか、一度もないんだろう。


そんな小っぽけなプライドで、あの子を振り回すのはやめてほしい。


一切引かない俺の顔を見ながら、工藤課長は俺のネクタイからゆっくり手を離した。


「とにかく…」


そう言って工藤課長は、また前を向き直した。


「ひまりは俺を愛してるんだ。

キミが何を言おうが、もうそれは変わらない」


ヤツがそう呟いた直後、エレベーターの扉が開いた。


早歩きで、エレベーターから出ていく工藤課長。


俺はしばらく、その後ろ姿をじっと見ていた。


乱れた首元を、そっと手で直しながら。


絶対負けないと、固く心に誓う俺だった。

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