心を全部奪って
「でも、私なんかで役に立てるのかな?」


「もちろんだよ。ひまりは頭の良い子だから、きっと大丈夫」


大丈夫と言われて、自然と口元が緩んでしまう。


父にそう言われるのは、なんだか久しぶりな気がした。


「じゃあ私、一旦東京に戻って、アパートを引き払う準備をするね」


冷蔵庫とか洗濯機なんかは、もう処分してもいいよね?


学生時代から使っていて愛着があるけど、この家に置くスペースはないし。


「焦ることはないから。好きなタイミングで帰って来るといいよ」


「うん」


会社をクビになって、すごくつらかったけど。


このタイミングで実家に帰って来て良かった。


こんなふうに、お父さんと普通に話せる日が来るなんて…。


もしかしたらこれが、私の運命だったのかもしれない。


地元に帰れっていう、神様からのメッセージだったのかも。


いいよね?


もう、東京で頑張る意味はなくなったもの。


ここは都会とは言い難いけど、かと言って田舎でもない町だから、とても住みやすいし。


ここへ帰ろう。


そして、これまで出来なかった親孝行をしよう。


そうしたら、きっと全部忘れられる…。


それで、いいんだ…。
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