心を全部奪って
「ひまりちゃん。

それは違うよ」


「え…?」


違うって、どういうこと?


「私が腹を立てていたのはね。

ひまりちゃんが、私に何も話してくれてなかったからだよ。

あんなに毎日一緒にいたのに、工藤課長のことが好きだったなんて、ひと言も教えてくれなかったじゃない」


美帆ちゃんは、少し怒った口調で言った。


「苦しい恋をしてたんでしょう?

どうして相談してくれなかったの?

そんなに私って、信用できなかった?」


「美帆ちゃん…」


「ひまりちゃんにとって私って、その程度の存在だったの?」


違う。


そうじゃないよ。


美帆ちゃんが好きだから、嫌われるのが怖かった。


軽蔑されるのが、怖かったんだ。


「でも…。

確かに大っぴらに出来ることではないよね。

言えなかったひまりちゃんの気持ちもわかるから。

だから、もう怒ってないよ」


そう言って笑う美帆ちゃんは、いつもの優しい顔に戻っていた。

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