心を全部奪って
工藤課長はビジネスカバンの他に、大きな紙袋を抱えていた。


最終日だし、持って帰るものが色々あるんだろう。


それにしても今日で最後なのに、誰も見送りに出ていないなんて。


ちょっと気の毒に思いつつ、俺はエレベーターを降りた。


それと入れ替わるように、工藤課長が乗り込もうとする。


肩が触れそうになったその時。


「ま、待ってくださいっ」


思わずヤツの腕を掴んで、その足を止めた。


誰も乗っていないエレベーターの扉はスッと閉まり、そのまま階下へと下りていった。


「何か用か?」


工藤課長は、低く艶のある声で言った。


「ひとつ、どうしても聞きたいことがあるんです」


「なんだ…?」


お互い目は合わさない。


俺は会社の方を。


ヤツはエレベーターのドアの方を、ただ真っ直ぐ見つめていた。


「どうして…、


朝倉を裏切ったんですか?」

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