心を全部奪って
「ひまり、こっちに来て」


ソファーの前に座っている霧島君が、私を手招きする。


なんだろう?と膝で歩いて行ったら、腕を引っ張られて無理矢理霧島君の前に座らされた。


後ろからぎゅっと抱きしめられて、ドキドキと胸が高鳴ってしまう。


「ワイシャツ、シワになっちゃうよ?」


「かまわない…」


私を包み込む霧島君の力強い腕に、そっと頭をもたれた。


シャワーを浴びたばかりの霧島君からは、爽やかな香りが漂っていた。


「ひまり」


「ん?」


「帰るなよ」


「え…?」


「帰っちゃダメだ」


「で、でも…」


引越しの荷物だって届いちゃうし。


両親には実家で暮らしたいって言っちゃったし。


仕事だって手伝うことになっているのに…。

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