心を全部奪って
「狭いアパートにずっといたら、視野が狭くなんねーか?

目の前の海を見てみろ。

海は広いな大きいなーだろ?

自分の悩みなんかちっぽけなものに見えてこないか?」


確かに…。


目の前に広がる海は、どこまでも果てしなくて…。


自然を前にすると、自分はなんて小さいんだろうって思っちゃうね。


「営業やってると時々ひどい客がいたりして、すげームカつくことがあるんだけどさ。

そんな時はさ、海を見に行くんだ。

そうしたら、そんなことどうでもよくなって忘れていく。

忘れてスッキリしたら、また月曜から頑張れるんだ」


霧島さんも、つらい時があるんだね。


それはそうだよね。


色んなお客様がいるわけだし。


ストレスだって溜まるよね。


「俺、突然海が見たくなる人だから。

またいきなり誘うかも?

いや。

その時は強制連行だから。

お前に拒否権はない。

わかった?」


目を細めてニッコリ笑う霧島さん。


その優しい笑顔に、なぜか胸がトクンと音を立てた。

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