心を全部奪って
「そんなこと、別にどうでもいい…」


聞こえるか聞こえないかの小さな声で、霧島さんはボソッと呟いた。


どうでもいいって…。


私の質問には答えてくれないの…?


「そんなことより、俺の方が聞きたいよ」


突然、苦しそうな表情で私を見る霧島さん。


「な、に…?」


「あんた、どうして工藤課長と不倫なんかしてるんだ?」


「え…?」


「あの人、奥さんと別れる気なんかないぞ。

このまま付き合ったって、夢も希望もねーじゃねぇか。

それなのに、何のために付き合ってんだよ」


「そ、れは…」


膝の上のマグカップを、両手でぎゅっと握り閉める。


私はただ…。


ただ純粋に……。


「彼が、好きだから…。

ただ、それだけ…」


彼から奥さんを奪おうなんて、思っていない。


未来がないのもわかってる。


でも、好きなの…。


それはもう、


どうしようもないくらい。

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