Taboo
出会い
ドアの向こうは、広いスタジオになっていて、壁の一面は鏡張り、あちこちに楽器や音響機器がある中で、一台の電子ピアノが置かれてあった。
「はじめまして。講師の石井です。」
本格的なスタジオ環境に気を取られ、声をかけられるまで気にもしなかったが、そこにはわりと小柄な若い男性が座っていた。
「早速やけど、歌ってみてくれる?」
予約の電話を入れた時に、音源となるCDを持参するように言われ、それを渡した。
聞きなれたイントロが流れ、いつものとおりに歌ってみせた。
「声量も、音程もバッチリやね。あとは、もう少しだけ感情も入れられたら…」
と、所々丁寧に歌ってみせてくれた時、その歌声にさすが先生だと思った。
後から考えると、入学させるための褒め言葉だったんだと思える言葉も、その時は歌手になれるんじゃないかとさえ思えた。
それくらい、先生の言葉に、声に、何か不思議な気持ちになっていた。
「…今日はここまでです。入学したくなったら、いつでも連絡してな。ミキさんは、絶対に良い歌手になるよ。」
魔法にかかってしまったのか、その日のうちに、入学申し込み書にサインしていた。
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