優しい世界の愛し方
あの女の子たちを押しのけて来栖くんにジャージを渡すのは無理そうだ。

......しかたない。タイミングなんてまだたくさんあるはず。今は止めておこう。

そう思った。

だが、

私はクラスの人気者のすごさを後に思い知らされることになる。

授業ごとの10分休憩。ここで話しかけようと試みるけれど、ことごとく失敗した。

男女関係なく、彼の周りには人がいる。

まるで入り込める余地が無い。


なんで! たかがジャージを渡すだけなのにこんなに苦労するのか!

こうなればなにがなんでも今日中に渡してやる。こんな日が何日も続くなんてごめんよ。

となれば、

狙い目は昼休みか放課後。

さすがに渡せるはず!



ということで昼休み。

昼食を食べに行かれる前に話しかけようとする。が。

「いおり! ダッシュだ! 売店のクリームパンなくなっちゃうだろ!」
「おう! サッカー部で鍛え上げたこの脚力。今日こそはラグビー部に勝つぜー!」

チャイムが鳴ったと同時、来栖くんは友人たちと風のように走り去っていってしまった。
< 29 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop