28才の初恋
「座りたまえ」

 ふんぞり返ったまま、目の前のソファを顎で指し示す。
これが謝罪に来た相手でなければ、禿げ上がった頭を思い切り張り手で叩いてやりたい。
 きっとスパーン!という素敵な音が響くことだろう。

 しかし、ここはグッと我慢だ。
 いかに見た目と態度が憎いとはいえ、桃代部長は取引先の責任者である。
 今回の事件が上手く解決するも、失敗して取引自体がご破算となってしまうのも、全てはこの憎らしいオヤジに私と大樹クンの命運が握られているのだから……。

「手短に頼むよ」

 偉そうに、いや、取引先の全権者なのだから私たちから見れば実際に偉いのには違いないのだが。
 それでも納得のできる許容範囲を越えるような偉そうさで桃代部長が吐き捨てるような口調で私たちに言い放つ。

 私たちとしても……出来れば手短に話を切り上げて帰りたいところではあるが。
 それでもきっと手短で帰れるとは到底思えない……絶対にねちっこい話をするに違いない。
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