28才の初恋
「か、帰ろうか……」

 自分の答えの後に、訪れるであろう沈黙が怖くて帰宅を促してしまった。
 せっかくの良い雰囲気なのだから……このままドコかに誘ってしまう手もあっただろうに。
 自分のチキンさ加減が少し憎い。

 明日から、また忙しくなるということで二人きりで二次会ということもなく。
 銀座の街中を駅に向かって並んで歩く。

 心なしか……少しだけ並んで歩く距離が今までよりも近いような気がする。
 これまでは、並んで歩いていても……あくまでも上司と部下の距離があったような。
 それが、今夜は少しだけ手を伸ばせば大樹クンと手を繋げそうな距離の近さに感じる。

 今歩いている場所から、最寄りの駅まで十分くらいの距離がある。
 思い切って……手を繋いでみようかな?

――驚かれてしまうだろうか?引かれてしまう?……でも、手を繋ぎたいんだ!
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